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応答なし / ルク

《通達》

 

薬学研究課 魔法薬学研究室 室長

ルクシオン・ラインハルト研究員

 

この度、我々機密管理委員会は貴殿の機密保持に対する意識が低下傾向にあると判断しました。

つきましては、今後の機密情報の扱いに関して、一度我々と貴殿との間で話し合いの場を設けたいと考えています。

明日の13時に、本部6階  セキュリティ管理部 モニタールームまでお越しください。

 

WS本部 機密管理委員会 最高機密管理者

 

 

ルク:ご丁寧に書面での通達とは……上層部、暇なんじゃないの。

   でも何でセキュリティ管理部が……こういう話は大概7階でやるものなのに。

 

 

クロ:ただいま戻りました! 頼まれていた薬品、ちゃーんと調合してきましたよ!

 

ルク:ああ、クロ……おかえり。助かったよ。

 

クロ:いえいえ! これも助手のお仕事ですから。

 

ルク:そうだ、明日は午後からここを空けるから……昼の休憩が終わったら自由にしていい。

   中々他の部署や外へ遊びに行く機会もなかったでしょ、たまには羽を伸ばしてきたらどう。

 

クロ:いいんですか? ありがとうございます!

   ルクさんもあんまり頑張りすぎないでくださいね、なんだか顔色が悪くて心配です。

 

 

ルク:……今日と明日は薬の量を増やしておいて。

 

クロ:わかりました! では睡眠薬と安定剤の量を増やしておきますね。

 

ルク:……ありがとう。

 

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認証中…

クラスIVの権限を確認。

職員情報を参照しています…

>>>

認証に成功しました。

職員ID:13F1211

モニタールームへの入室を許可します。

――お待ちしておりました、ルクシオン・ラインハルト研究員。ここに呼び出された理由は解っていますね?

 

ルク:「機密保持に対する意識の低下」でしょ。解ってる事をわざわざ訊かないで。

   それより此処、リンの管轄だったはずだけど。まさか見てるなんて事ないよね。

 

――部長は現在席を外しております。それと、彼女は機密管理の職務には携わっていません。

 

ルク:どうだか。信用できないな。

 

――我々は機密にすべき情報の保持を目的とした嘘以外は吐きません。

 

ルク:……まあいい。それが嘘かどうかさえ、俺には知る権限がない。

 

――本題に入りましょう。我々はここ数か月の貴方の行動に問題があると判断しました。

  監視システムにも貴方の行動は記録されています。

  

( モニターの一部が拡大され、監視カメラの映像が映し出される )

 

 

2096/10/08 02:46

薬学研究課 B2F 地下実験室前廊下

 

[扉の前で座り込み、30分近く項垂れているラインハルト研究員の姿が映し出されている]

[突如気が狂ったかのように頭を掻き毟ったかと思えば、扉に向かって必死に話しかけ始める]

[縋り付くように鉄製の扉に爪を立て、そのまま力なく崩れ落ちてしまう]

 

[応答はない。]

 

 

ルク:…………

 

――貴方もご存じの通り、地下実験室は封鎖されています。

  その中にあるものが機密指定であることも同様にご存じのはずです。

  機密情報が漏洩する危険性は低いとみられていますが、貴方の行動を不審視し、その理由を探ろうとする者が現れかねません。

  そうなれば我々の機密管理における安全性が脅かされ……

 

ルク:あの子はものなんかじゃない。

 

――貴方は過去に自身が犯した過ちについて重く受け止めるべきです。

  "彼女" が機密指定でなければ、貴方は今頃法の下で裁かれ、厳重な罪を課せられていたのですよ。

 

ルク:……お前らは俺から全てを奪ったんだ。刑務所にでもぶち込まれた方が幾分かマシだった。

 

――残念ですが、それはできません。貴方はこの研究所の機密情報を握る人間です。

  我々は研究員の存続を決定する権利も無ければ、個人の記憶を抹消するような技術も持ちません。

  しかし、所長が貴方をこの研究所に残すと決定した以上、貴方にここを離れることは許されません。

 

ルク:最初から逃がす気なんてなかったくせによく言うね……飼い殺しにしたいのなら素直に言えばいい。

 

――貴方がこの場に居られるのは所長の気遣いがあってのことであると理解してください。

  そして、貴方はその恩義に報い、より厳正な機密の保持に努めるべきです。

 

――もし改善が見られないようなら、我々は地下2階に立ち入る権限を剥奪する事も視野に入れています。

  貴方に限った事ではありませんが、研究所内での行動は全て監視・記録されています。

  くれぐれも……僅かな望みすら持つことのないように。

 

――地下実験室は封鎖されています。

  鍵が開くことはありません。

 

――これは警告です。

 

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2096/10/11 01:52

薬学研究課 B2F 地下実験室前廊下

 

ルク:もう君に会いに来れなくなるかもしれない。

[地下実験室の鍵は閉ざされている。]

ルク:でも安心して……君が俺の全てであることに変わりはない。

   ずっと君のことを愛してるんだ……ずっと。

[鉄製の重い扉は声すら遮断してしまう。]

 

ルク:いつか一緒に此処を出よう、クロラール。

[応答はない。]

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